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ことに年齢がいけばいくほどカロリーが要らないわけです。1000kcalというのは静かに寝ている人にはオーバーになります。しかも肝臓にメタがあるような場合にはオーバーです。こういう患者さんはあまり処置をしないで、なるべく患者の要求のままにする。軽い脱水がいちばん安楽な死なのです。
〔症例2〕
末期肺癌における呼吸器症状のコントロールができなかった一症例
藤田保健衛生大学七栗サナトリウム奥山敦
●M.I.氏、男性、74歳、肺癌(Stage4)、骨転移、告知未、肺結核、肺炎
入院までの経過
平成8年3月から7月まで右肺癌、骨転移診断にて、ケモ・ラジエーションを他院にて受け退院となる。退院後も発熱、右胸部痛、咳嗽等、症状軽快しないため当院内科受診され入院となる。
入院中の経過
入院後も呼吸器症状軽快しないため、酸素2l,MSコンチン、ステロイド剤等開始となる。呼吸器症状もコントロールでき一時的外泊も可能となる。在宅酸素療法も承諾されたが、本人に告知していないこともあり必ず治癒してから外泊すると言われたためできず。MSコンチンも120mg/dayまでupするも呼吸器症状徐々に悪化し、ADLも低下、終日ヘッド上臥床となる。この頃より日常生活に対しても意欲が低下し、弱音の言葉も聞かれるようになる。
本人は真面目で気弱さあり、性格的気質なのか看護婦に対しては症状を訴えるも医師の診察に際してはあまり症状を訴えることがなかった。このため、主治医は症状を把握することができず、看護婦側がMSコンチンの増量や塩酸モルヒネの持続皮下注について助言しても拒否的態度をとる。
内服も不可となり呼吸器症状のコントロールも困難を極め一進一退の状態が続いたので、ホスピス医の助言により主治医は塩酸モルヒネの持続皮下注について了解される。塩酸モルヒネの持続皮下注について医師より説明受けるも、本人は最後まで治癒する望みをもち、麻薬投与方法変更に際し拒否的態度をとる。看護婦側も必要性について説明するも、本人より、「私は妻をいちばん信頼しているので一緒に相談してから決めていいですか」という言葉が聞かれる。一時様子見るも、最終的に本人も必要性が理解でき持続皮下注(塩酸モルヒネ3A+セレネース3A+生食34ml)を開始するも、呼吸苦軽快せず体動撤しくベッドより転落することもあり、死に対する恐怖・不安を増大させる結果となった。再度、〈セレネース6A+生食100ml〉を輸液ポンプにてセデーションを開始するも効果なく、症状コントロールができず、本人、家族にとっても悲惨な死を遂げさせるに至る。
Andrew ハロペリドルは何の目的で使って、量はどのくらいだったのですか。ハロペリドル60mgなど考えられなくて、5mg/24時間でマックスと考えているわけです。
Wendy それだけの薬を使うと着座不能症ということでベッドから転がり落ちるのは当たり前です。ベンゾジアゼピンを呼吸困難、鎮静剤として使います。
西立野 モルヒネで呼吸困難感を減らせるところまで減らすことを試みますが、そのほかはハロペリドルは鎮静作用はあまりなくアカシジアなども起こりますので、どうしても鎮静が必要な場合にはミダゾラム(商品名ドラミカム)という水溶性のベンゾジアゼピンがありますが、そういったものを使っています。
−この症例を見ると、まさに病院で死ぬということそのものではないかという気がします。患者さんに治療の目的、入院の目的、そしてそれぞれの症状の説明がまったくなされていない。そしてコミュニケーションが2回目の入院以後もとれていないから患者は拒否し出した。本当に袋小路に入っていくような患者さんの気持ちを考えると残念な症例だと思います。
Andrew あえて失敗例を持ち出したあなたの気持ちは薬がよかった悪かったという薬理的な問題ではなくて、同僚である医師にどれだけ今後説得できるかという課題だと思います。
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